いよいよ「ジョブ型雇用」が日本の大手企業でも加速しそうだ(「日本経済新聞」2022年1月10日)。「ジョブ型雇用」とは、欧米ではすでに一般的であった雇用形態で、業務内容やポジション毎に必要とされる能力や責任範囲が「Job Description」(業務記述書)」に規定されており、社員採用時には、雇用者は、この「業務記述書」をもとに面接を行い、雇用するか否かの判断を行い、被雇用者は同記述書にもとづき自己プレゼンテーションを行う。
従って、従来の日本企業が終身雇用や勤続年数を前提として、新卒一括採用していた「メンバーシップ型雇用」とは大きく異なり、「ジョブ型雇用」は経験者の採用が前提であり、被雇用者のスキル、能力次第で年齢には関係なく給与も決定されるのが原則だ。また、人材市場の需給次第では、ヘッドハンターから破格の雇用条件で他社へのお呼びがかかることもある。一方、経営方針の変更やM&Aなどで担当していた業務や部署が無くなれば、その担当者は解雇されることも覚悟していなければならない。
筆者は以前、「ジョブ型雇用」が当たり前の外資系金融機関でコンプライアンス・オフィサーとして、何回か転職し勤務した経験がある。専門職のカラーが強いコンプライアンスは、一部の日本の金融機関でも「ジョブ型雇用」は既に採用されているが、近い将来、日本の事業会社一般においてもコンプライアンス専門家の「ジョブ型雇用」が採用される可能性がある。専門職というと、システムエンジニアなどIT関連の業務だけに目が行きがちであるが、これからの企業経営には、コンプライアンスの専門家を「ジョブ型雇用」として採用することを視野に入れていても良いだろう。転職は日本でもタブーではなくなっており、人材市場の流動性は高まるばかりだ。
多くの日本企業では、今までは「コンプライアンス」に関する十分な社内的議論も正確な「業務記述書」の整備も不十分だったと思われる。近年、企業経営に対するステークホルダーの要求は多様化・高度化が急速に進み、ますますコンプライアンス・リスク管理の重要性は高まるばかりである。今までは法令等のルールさえ遵守していれば問題とならなかった事項でさえ、それが社会にとって不適切で、投資家や株主に結果的に不利益につながるような事項に対しては、企業のレピュテーションにはマイナスに作用し、企業価値が毀損することが起こり得る時代になりつつある。
その為には、先ず、コンプライアンス業務の本質を理解するために、コンプライアンス・マネージャーの「業務記述書」を社内で整備することから始めたら良いだろう。以下に金融機関におけるコンプライアンス・マネージャーの標準的な「業務記述書」を添付するので、参考にして頂ければ幸いだ。
コンプライアンス・マネージャーの「Job Description」(業務記述書)」(例)
概 要: コンプライアンスに関する全社的な統括、法令・規範に関する社内への啓発・指導・助言その他を行う。 職務内容 · 当社業務全般の法律上の手続き及び照会への対応、法令等遵守に係る統括業務 · コンプライアンス・リスクに関する業務上の勧告および意見具申 · コンプライアンス研修の企画・実施 · コンプライアンス・プログラムの作成 · コンプライアンス違反に対する改善指導・命令 · 各部門のコンプライアンス推進状況に係るチェック · 社内規程、法令照会案件等のチェック · 内部、外部監査の調整と手配 · 新法令等法務関連情報の収集・社内通知等 · 規制当局との折衝・交渉の窓口 · マネロン・テロ資金供与防止体制の整備 応募資格: · 該当業務に関連した会社で3年(~5年)以上の実務経験を有すること · 実務経験を有する業務を適切に行う上で必要な法令(民法、会社法、信託法、金融商品取引法、銀行法等)、監督指針、協会規則などに関する知識を身に付けていること · 業務で英語を利用することに抵抗感がないこと ・ 海外での実務経験、もしくは法曹資格を有する場合は尚可 |